相続税対策で注目される資産管理会社とは

資産管理会社とは、個人が所有する不動産や有価証券などの資産を管理・保有するために設立する法人(会社)のことです。

特に、複数のアパートやマンションを所有している不動産オーナーや資産家の間で、資産防衛や税務対策の有効な手段として活用されています。個人で資産を持ち続けるよりも、法人(会社)という別の器に移すことで、税金面や財産の引き継ぎにおいて様々な恩恵を受けられるのが特徴です。

なお、本記事の執筆にあたっては、筆者(弁護士 碇)自身が資産管理法人を設立して不動産を購入している体験も交えて解説します。

資産管理会社を設立する3つのメリット

資産管理会社を設立する主なメリットは、以下の3点です。

所得の分散による節税(所得税・住民税の軽減)

個人の所得税は、収入が増えるほど税率が高くなる「累進課税(るいしんかぜい)」という仕組みですが、法人税は一定の税率に抑えられています。また、家族を役員にして「役員報酬」としてお給料を支払うことで、個人の所得を家族に分散させ、世帯全体の税負担を軽くすることができます。

ざっくりと、税引前利益の30%を税金として確保し、70%が会社に残るというイメージになります。そのため、個人の実効税率が30%を超える場合、または超えるほどに不動産を購入する予定であれば、目先の税金を考えると資産管理法人を設立した方が良いと言えます。

一方で、最終的に手元に資金を戻す際に税金がかかることも考えると、個人で資産形成をすることも長い目で見るとメリットがあります。不動産の場合、およそ5年以上保有して売却した場合には譲渡所得に対する課税は約20%となるため、5年以上保有後に売却するという前提で個人で購入するという選択肢もあります。

相続人の「納税資金」の確保

相続税は、原則として現金で一括納付しなければなりません。資産管理会社を作り、生前から家族(将来の相続人)へ役員報酬として現金を渡しておくことで、いざという時に相続税を支払うための手元資金(納税資金)を計画的に準備させることができます。

具体的には、所得のない、または少ない家族を役員にして役員報酬を払い出しておくことで、低い税率で手元資金の準備をすることができます。

遺産分割トラブルの防止

アパートなどの不動産を個人のまま複数人で相続すると「共有状態」になり、将来の売却や修繕を巡って親族間で揉める原因になります。

しかし、不動産を会社のものにして、家族には会社の「株式」という形で分け与えることで、経営権(管理)を1人に集中させつつ、財産の価値は公平に分けるという柔軟な対応が可能になります。

具体的には、議決権のない株式(種類株)を発行してそれを子に相続させ、配偶者には議決権のある株式を相続させるということも考えられます。ただし、株価の評価の点で議決権のある株式の評価が高くなる可能性がありますので、あまり細かいテクニカルな設計は避けた方がよい場合もあります。

シンプルに、不動産の共有よりも、株式を割合的に分けることができるようになるとお考えいただくとよいでしょう。

資産管理会社の設立が相続税対策になる仕組み

では、なぜ資産管理会社の設立が直接的な相続税の対策になるのでしょうか。その最大の理由は「個人の財産が増え続けるのを防ぐこと」にあります。

例えば、個人で収益不動産を持っていると、毎年の家賃収入が個人の預貯金としてどんどん蓄積され、亡くなった時の遺産(相続財産)が膨れ上がってしまいます。財産が増えれば増えるほど、当然ながら相続税も高くなります。

しかし、資産管理会社を設立して不動産を会社の所有にすれば、毎月の家賃収入は「会社の利益」となります。個人の現金がこれ以上増加するのをストップできるため、結果として将来の相続税の負担を低く抑えることができるのです。

ただし、実際には、会社に溜まった現金などの資産は株価の評価を高く押し上げる要因にもなります。株価の評価というワンクッションを挟むことで、直接的に現金を保有しているよりは遺産総額を抑えられる、という限りで理解した方がよいでしょう。

単純に資産管理法人の設立が節税につながるという側面も当然ありますが、それよりも決定的なのは、資産管理法人において借入れをすることで株価の評価を押し下げる要因になるということです。これは個人でも同じですが、資産管理法人の方が借り入れがしやすい実情もあります。やはり個人の所得税が累進課税になっているため、個人の所得が1,000万円を超える場合、または同額を超えるまで不動産を買い進める場合は、最初から資産管理法人を設立した方がよいと考えます。

目先の税金を抑えて、法人で資金をためて資産形成に充てることを目的とするなら、という前提です。

設立時に注意すべきデメリットと法的な落とし穴

メリットが大きい一方で、設立には以下のような注意点もあります。

設立費用や維持コストがかかる

会社の設立には登記費用などがかかります。また、たとえ赤字であっても毎年「法人住民税の均等割」という税金(約7万円〜)がかかり、会社の決算手続きのために税理士への顧問料も発生します。

親族間の「遺留分(いりゅうぶん)」トラブル

遺留分とは、配偶者や子どもなど(兄弟姉妹を除く法定相続人)に、法律で最低限保障されている遺産の取り分のことです。

特定の家族を後継者にして自社株(会社)を集中させようとすると、他の家族の遺留分を侵害してしまい、死後に多額の金銭を請求されて揉める(争族となる)リスクがあります。

これを防ぐためには、経営承継円滑化法に基づく「遺留分に関する民法の特例(除外合意など)」を活用するなどの法的な準備が不可欠です。このテーマは、中小企業経営者にとって極めて重要で、知っているかどうかで差が付くポイントになりますので、別記事で詳細をご説明しています。

法務と税務をワンストップで|当事務所の強み

資産管理会社を活用した相続対策は、「相続税の節税(税務)」と「親族間トラブルの防止(法務)」の両輪で考える必要があります。節税ばかりに気を取られて法的な配慮を怠ると、ご家族の絆を壊してしまうことになりかねません。

弁護士法人いかり法律事務所では、事業や不動産を「単なる財産ではなく、長年築いてこられた価値そのもの」と捉え、以下の強みで皆様をサポートいたします。

  • 税理士・司法書士等とのワンストップ連携|当事務所は提携する税理士や不動産鑑定士、司法書士と密に連携しています。弁護士が遺留分などの法的な紛争リスクを予防・解決しつつ、税理士が資産管理会社の活用を含めた最適な税務対策を行うことで、窓口一つで総合的な解決を提供します。
  • 「納得の決着」を目指す丁寧なサポート|私たちは単なる法的な正論の押し付けではなく、ご相談者様やご家族の感情に寄り添い、法的な「実利」と感情的な「納得感」の両立を目指す「納得の決着」を大切にしています。

まとめ

資産管理会社の設立は、不動産オーナーや資産家にとって相続税の増加を防ぎ、所得を分散させる大きなメリットをもたらします。しかし、確実な節税効果を得るためには、初期費用やランニングコストの計算、そして「遺留分」などの親族間トラブルを防ぐ法的な対策が不可欠です。

「自分の資産状況で法人化すべきか分からない」「将来、家族が揉めないように今できる確実な対策をしておきたい」

福岡で相続の生前対策や資産防衛をご検討中の方は、弁護士法人いかり法律事務所へお気軽にご相談ください。当事務所では初回60分の無料相談を実施しております。あなたの大切な資産とご家族の未来の安心を守るため、私たちが全力で伴走いたします。

よくあるご質問

なぜ資産管理会社を設立すると、相続税の節税対策になるのですか?
最大の理由は、毎年の収入による「個人の財産(相続税の課税対象)がこれ以上増え続けるのを防ぐこと」にあります。個人でアパートやマンションなどの収益不動産を所有していると、毎年の家賃収入が個人の預貯金としてどんどん蓄積され、将来亡くなった時の遺産が膨れ上がってしまいます。不動産を資産管理会社の所有にすれば、家賃収入は個人ではなく「会社の利益」となるため、個人の手元現金が増加するのをストップさせ、将来の相続税負担を低く抑えることができます。さらに、家族を会社の役員にして「役員報酬」を支払うことで所得を家族に分散して世帯全体の税負担(所得税・住民税)を軽くしたり、将来の相続人に「納税資金」を計画的に準備させたりすることも可能です。なお、これは一面的でもあり総合的に考える必要がありますが、ポイントは、資産管理会社の株価評価が0円または低い段階で、相続人への譲渡などを検討することです。
資産管理会社を作ることが、将来の「遺産分割(分け方)のトラブル防止」にどう役立つのですか?
不動産という「分けにくい財産」を、会社を通じた「株式」という形で平等かつ柔軟に分けることができるようになります。実家や収益アパートなどの不動産を個人のまま複数の相続人で引き継ぐと、安易に「共有名義」にしてしまい、将来の売却や大規模修繕の際に全員の意見がまとまらずに何もできなくなる(塩漬け状態になる)リスクが極めて高くなります。また、特定の1人が不動産を継ぐ代わりに他の親族へ現金を支払う「代償分割」を行おうとしても、支払う現金が手元に足りずに揉める原因になります。これに対し、不動産をあらかじめ資産管理会社のものにしておき、家族には会社の「株式」を分け与える形にすれば、会社の経営権は特定の1人に集中させて意思決定をスムーズにしつつ、財産の価値は株式の保有割合に応じて公平に分け合うという、親族間のしがらみを残さない解決が可能になります。
資産管理会社を設立・維持する上での注意点や、デメリット(コスト)はありますか?
主に「設立時の初期費用」と「維持管理にかかるランニングコスト」が発生する点がデメリットになります。会社を設立する際には登記費用などの初期コストがかかるほか、設立後には毎年、法人住民税の均等割(決算が赤字であっても毎年最低約7万円〜の地方税)と、専門家への顧問料(法人の決算手続きや法人税の確定申告を適切に行うための税理士への顧問料や申告代行費用)を払い続けなければなりません。収益不動産の規模や毎年の利益が小さい場合は、これらの維持管理コストが節税メリットを上回ってしまう「法人化損」になる恐れがあるため、事前の正確な収支判定が必要です。
資産管理会社の株式を、会社やアパートを継ぐ後継者に集中させたいです。どのような法的なリスクがありますか?
特定の家族に株式(会社)を集中させようとすると、他の家族に法律上最低限保障されている遺産の取り分である「遺留分」を侵害してしまうリスクがあります。自社株の価値が高い場合、後継者がすべての株式を受け取ると、他の相続人から「自分の最低限の取り分が侵害された」として、後から多額の金銭を請求される「遺留分侵害額請求」などの深刻な親族間トラブル(争族)に発展しかねません。これを防ぐためには、生前のうちに「経営承継円滑化法」に基づく「遺留分に関する民法の特例(後継者が贈与された株式を遺留分の計算対象から除外する『除外合意』や、価値を合意時点の時価に固定する『固定合意』)」を利用するなど、推定相続人全員の合意や家庭裁判所の許可を得た厳格な法務対策を講じておくことが重要です。
個人で所有しているアパートを資産管理会社に移したい(法人化したい)場合、まず何から始めればよいですか?
不動産を法人へ移転する際の「一時的な税金コスト」と、移転後の「長期的な節税効果(費用対効果)」を専門家に正しくシミュレーションしてもらうことから始めます。個人の不動産を法人へ移す(売却や現物出資する)際には、一時的に「登録免許税」や「不動産取得税」がかかるほか、個人側に「譲渡所得税」などの税金コストが発生するケースがあります。これらの初期費用と、法人化後に毎年削減できる所得税・法人税の削減額を天秤にかけ、税理士などの専門家に正確な利益シミュレーションを依頼しましょう。不動産鑑定士の鑑定評価を取るなど慎重に進めなければ、脱税行為とみなされる可能性もあります。同時に、将来の親族間のトラブルや遺留分の問題を回避するために、「誰に・どの割合で株式を持たせるか」という安全な承継スキームについて弁護士に設計してもらうことで、税務と法務の双方から落とし穴のない万全な法人化対策を整えることができます。