第10回脳活新聞フェアでの講演について

脳活新聞(西日本新聞社)が主催する「第10回脳活新聞フェア」が、2026年9月28日(月)、アクロス福岡 地下2階イベントホール(福岡市中央区天神)で開かれました。当事務所の碇 啓太弁護士は、このフェアで相続セミナーの講演を行いました。

  • 日時:2026年9月28日(月)14時20分から
  • 会場:アクロス福岡 地下2階イベントホール(福岡市中央区天神1-1-1)
  • 主催:脳活新聞(西日本新聞社)
  • 講師:弁護士法人いかり法律事務所 弁護士 碇 啓太(福岡県弁護士会所属)
  • 題名:「うちは揉めない」その相続、認知症で止まります ── 元気なうちに備える遺言と遺言執行

碇弁護士が講演した「第10回 脳活新聞フェア」のリポートは、2026年10月18日(日)付の西日本新聞の朝刊9面(全面広告)に掲載されました。紙面の一部の画像は、こちらでご覧いただけます。碇弁護士が脳活新聞フェアで講演しました|10月18日付の西日本新聞の紙面について

アクロス福岡の会場で、スクリーンを使って講演が行われている様子。客席の後方から撮影

講演の参加者には、「自筆証書遺言の書き方・保管方法」と「自筆証書遺言記載例」の2点の資料をお配りしました。いずれも当日の会場での配布で、このページでの配布は行っていません。

この記事は、当日の講演の内容に沿って整理した一般的な説明です。個別の事情によって結論が変わることがあります。

認知症で相続の手続きが止まるのはなぜか

「うちは揉めない」と考えているご家族でも、相続の手続きが進められなくなることがあります。理由の一つが、ご本人や相続人の「判断する力(意思能力)」です。判断する力があるかどうかは、認知症という診断名だけで一律に決まるものではなく、そのときの状況から個別に判断されます。

遺言がない場合、財産の分け方は、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で決めます。遺産分割協議書には、一般に、相続人全員の署名と実印、印鑑証明書が必要で、一人でも欠けると成立しません。

相続人の一人が認知症の場合

相続人の一人が認知症などで判断する力を十分に持たない場合、その方が加わった話し合いは、原則として有効に成立しません。この場合は、家庭裁判所に成年後見人を選んでもらう手続きが必要になり、数か月かかることもあります。成年後見人は、ご本人の財産を守る立場にあるため、ご本人の取り分を法定相続分より少なくする分け方には、原則として応じられません。

講演で取り上げた次の設例(たとえ話)で考えてみます。これは設例であり、実際のご相談ではありません。父が亡くなり、母は施設で暮らしていて、認知症があるとします。母は自宅に戻れないため、家は同居の長男が相続し、母の生活費は長男がみることにしました。兄弟全員が納得しており、争いもありません。それでも、母に判断する力が十分にないときは、そのままでは遺産分割協議が成立せず、成年後見人の選任が必要になります。

遺言があれば、何が変わるか

遺言があれば、遺言で指定された財産については、遺産分割協議を経ずに手続きを進められるのが原則です。相続人の中に認知症の方がいる場合でも、この点は変わりません。ただし、手続きの内容によっては相続人の協力が必要になることもあります(遺言執行者については、後の節で説明します)。

一方、ご自身が認知症などで判断する力(意思能力)を失った状態になると、遺言を書くことや、お子さんへの生前贈与、ご自宅の売却、定期預金の解約といった手続きを、有効に行うことが難しくなります。そうなった後に残る方法は、家庭裁判所が選ぶ成年後見人による財産管理です。認知症への備えは、判断する力があるうちに進めることが大切です。

遺言書の「まちがい探し」:4つの落とし穴と保管方法

会場では、遺言書の見本から「まちがい」を探す「脳活チャレンジ」を用意し、講演の中で答え合わせをしました。見本の遺言書には、無効の原因や、手続きで困るおそれのある点が5つあります。このうち4つは、書き方や内容にかかわる落とし穴です。

  1. 日付が「吉日」になっている。
    「令和〇年〇月吉日」のように日にちが特定できない書き方は、日付の記載がないものとして遺言が無効とされた最高裁判決があります(最高裁昭和54年5月31日判決)。年月日まで具体的に書きます。
  2. 押印がない。
    自筆証書遺言では、全文・日付・氏名を自書し、押印することが民法968条1項で求められており、押印がないものは、原則として無効です。実印である必要はありませんが、シャチハタなどのインク浸透印は避けたほうが安心です。
  3. 本文がパソコンで作られている。
    本文は、ご自身の手で書く必要があります。自書でなくてよいのは財産目録で、パソコンで作成する方法や、通帳のコピー・登記事項証明書を添付する方法があります(法務省の案内)。目録は各ページに署名と押印が必要です(民法968条2項。記載が裏表にあるときは両面)。
  4. 「自宅」とだけ書かれている。
    土地と建物は、登記簿の上でいくつにも分かれていることがあり、「自宅」とだけでは、どの不動産か特定できず、名義変更の手続きで止まるおそれがあります。この書き方だけで遺言が無効になるとは限りませんが、所在や地番、家屋番号など、登記簿のとおりに書くことが勧められます。

書き上げた遺言書は、ご自宅などで保管する方法のほか、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」で預ける方法があります。法務局に預けると、手数料は1通3,900円(2026年10月時点)で、家庭裁判所の「検認」が不要になります。ただし、法務局が確認するのは形式面で、内容が法的に有効に働くかどうかまでは確認しません。

5つ目のまちがい:書かれていない「遺言執行者」

まちがい探しの見本の遺言書の5つ目のまちがいは、「書かれていないもの」、つまり遺言執行者の指定がないことでした。遺言執行者の指定がなくても、遺言そのものが無効になるわけではありません。ただ、書いた内容がスムーズに実現しないおそれがあります。

遺言執行者は、遺言の内容を実現するための手続きを進める人です。遺言執行者がいない場合は、預貯金の解約や名義変更などで、金融機関などから相続人全員の協力を求められることがあり、一人が協力しないと手続きが止まるおそれがあります。遺言に遺言執行者の指定がないときは、利害関係人(相続人など)の請求により、家庭裁判所が遺言執行者を選任することができます(民法1010条)。

遺言で遺言執行者を指定しておけば、任せたい人をあらかじめ決められ、その方が手続きを進めます。遺言執行者がいる場合、相続人は、遺言の執行を妨げる行為ができません(民法1013条1項)。相続人の中に認知症などで協力が得にくい方がいる場合にも、手続きが止まるおそれを減らせることがあります。遺言執行者の権限や、弁護士に依頼するメリットは、当事務所のコラム「遺言執行者の権限とは?弁護士に依頼するメリット」で解説しています。

講演では、遺言を「設計図」、遺言執行を「工事」にたとえました。設計図だけを描いて、工事をする人を決めずにいると、残されたご家族が「工事をする人探し」から始めることになります。遺言執行者は、すべての遺言に必要というわけではありません。遺言の内容やご家族の状況に応じて、遺言を書くときにあわせて検討しておくとよいでしょう。

講演では、お配りした「自筆証書遺言記載例」にも書かれていないことが2つあると説明しました。1つは遺言執行者の指定、もう1つは、財産をもらう方が、遺言を書いた方より先に亡くなった場合の定めです。記載例は、4つの書き方のパターンを1枚に並べた見本で、そのまま写すものではありません。先に亡くなった場合の定めがないと、遺言ではその財産の行き先が決まらず、相続人の話し合いが必要になることがあります。

遺言のほかにできる備え

講演では、遺言のほかに、元気なうちにできる備えとして、任意後見契約(判断する力があるうちに、将来だれに何を任せるかを決めておく契約)、家族信託(財産の管理を信頼できる家族に託す仕組み)、生命保険を紹介しました。生命保険は、相続人が死亡保険金を受け取る場合、「500万円×法定相続人の数」までが相続税の非課税枠とされています。任意後見と家族信託については、当事務所のコラム「【親の認知症】資産凍結を防ぐ対策とは?家族信託と任意後見を解説」で解説しています。

まとめ

講演でお伝えした要点は、次の3つです。

  1. 仲のよい家族でも、相続人が話し合いに参加できない状態では、相続の手続きが進められなくなることがあります。
  2. 遺言があれば、遺言で指定された財産については、原則として遺産分割協議を経ずに手続きを進められます。
  3. 遺言を書くときは、手続きを進める人(遺言執行者)まで決めておくことを検討しましょう。

相続は、どなたにもいつか訪れます。判断する力があるうちに、できる備えを考えておくことが、ご家族の負担を減らすことにつながる場合があります。

「親が認知症になる前に、遺言を準備しておきたい」

「相続人の中に認知症の方がいて、話し合いを進められない」

福岡で遺言や相続の備えをお考えの方、相続人の状況でお困りの方は、弁護士法人いかり法律事務所へお気軽にご相談ください。当事務所では初回60分の無料相談を実施しております。ご家族の状況や財産の内容をうかがい、遺言の作り方から相続が始まったあとの手続きまで、ご事情に合わせて整理します。特に、財産の中心が自宅や不動産、事業や株式である方は、遺言の内容を決める前に、一度ご相談ください。

よくあるご質問

認知症と診断されると、遺言は書けなくなりますか。
認知症と診断されたことだけで、遺言が書けなくなるわけではありません。遺言が有効かどうかは、遺言を書いた時点で、遺言の内容とその結果を理解する力(遺言能力)があったかどうかを、個別の事情から判断します。判断する力が低下してからでは、遺言の作成が難しくなったり、あとで有効性が争われたりするおそれがあるため、元気なうちの備えが大切です。
相続人の一人が認知症の場合、遺産分割協議はどうなりますか。
認知症などで判断する力が十分でない相続人が加わった話し合いは、原則として有効に成立しません。この場合は、家庭裁判所に成年後見人を選んでもらい、成年後見人が本人に代わって協議に加わるのが一般的です。選任には数か月かかることもあります。成年後見人は本人の財産を守る立場にあるため、本人の取り分を法定相続分より少なくする内容には、原則として応じられません。
自筆証書遺言は、パソコンで作成してもよいですか。
本文は、自分の手で書く必要があります。自書でなくてよいのは財産目録で、パソコンで作成する方法や、通帳のコピー・登記事項証明書を添付する方法があります(法務省の案内)。目録は各ページに署名と押印が必要です(民法968条2項。記載が裏表にあるときは両面)。
法務局の保管制度を使えば、遺言は有効になりますか。
保管制度を使っても、遺言が有効になるわけではありません。法務局が確認するのは、民法の定める形式に適合しているかという外形的な面で、内容が法的に有効に働くかどうかまでは確認しません。保管制度を使うと、家庭裁判所の検認が不要になります(手数料は1通3,900円。2026年10月時点)。内容や書き方に不安がある場合は、弁護士にご相談ください。
遺言執行者は、すべての遺言に必要ですか。
すべての遺言に必要というわけではなく、遺言執行者がいなくても、遺言は有効です。ただし、預貯金の解約や不動産の名義変更などで、相続人全員の協力が必要になる場合に、手続きが止まるおそれがあります。遺言に指定がないときは、利害関係人(相続人など)の請求により、家庭裁判所が遺言執行者を選任することができます(民法1010条)。遺言の内容によっては、遺言執行者の指定が必要になる場合もあります。ご家族の状況や財産の内容によって必要性が異なるため、遺言を作るときに検討をお勧めします。