はじめに|まず用語の整理から
一般に「相続財産管理人」と呼ばれてきた、相続人がいない場合に遺産を清算する制度は、2023年4月施行の改正後、正式には「相続財産清算人制度」と呼ばれています。
一方、現在の民法には、これとは別に、相続財産の散逸防止・相続人への引継ぎを目的とする「民法897条の2の相続財産管理人制度」があります。
以下では、まず相続人不存在型の相続財産清算人として比較し、最後に897条の2の制度も補足します。
結論
実務上は、次の基準で選ぶのが分かりやすいです。
行方不明者に成り代わるなら不在者財産管理人 不動産一つだけを動かすなら所有者不明土地管理人
3制度の全体像
- 相続財産清算人|亡くなった人の遺産全体を清算する。管理対象は被相続人の全財産・債務。相続人がいない、またはいるか不明な場合
- 不在者財産管理人|行方不明者の財産全体を代わって管理する。管理対象は不在者の全財産。本人は特定できるが所在不明な場合
- 所有者不明土地管理人|所有者不明の特定不動産だけを管理する。管理対象は特定の土地・建物・共有持分。所有者自体またはその所在が不明な場合
実務的には、亡くなった人単位で処理するのが相続財産清算人、行方不明者単位で処理するのが不在者財産管理人、不動産単位で処理するのが所有者不明土地・建物管理人、という整理になります。
相続財産清算人制度
活用場面
- 戸籍を調査したが法定相続人がいない
- 相続人全員が相続放棄した
- 相続人がいるかどうか明らかでない
- 被相続人の債権者が、遺産から債権回収をしたい
- 特定遺贈を受けた人が、遺贈を実現したい
- 内縁配偶者などの特別縁故者が、残余財産の分与を受けたい
- 相続人不存在の空き家・土地、預金、株式などを包括的に整理したい
清算人は、遺産を調査・管理し、債権者や受遺者に弁済した後、残余財産を特別縁故者に分与し、または国庫に帰属させます。
誰が申し立てられるか
申立権者は、被相続人の債権者、特定遺贈を受けた者、特別縁故者、その他遺産の処理について法律上の利害関係を有する者、検察官です。
単に「その土地を買いたい」というだけでは、通常、当然に利害関係人になるわけではありません。債権や遺贈、特別縁故関係など、被相続人の遺産に対する法律上の利害関係が必要です。申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
使い勝手がよい点
遺産全体を一括して処理できる|不動産だけでなく、預貯金、有価証券、貸金、動産、債務、複数の不動産を包括的に処理できます。相続人がいないケースを最終的に清算する制度なので、「誰も処分できない遺産」を法的に終結させられる点が最大の長所です。
不動産を換価して債権回収できる|家庭裁判所の権限外行為許可を得れば、不動産の売却、建物の取壊し、動産の処分などが可能です。したがって、遺産が不動産しかない場合でも、売却代金から債権者への配当を行えます。
使い勝手が悪い点
手続が重く、時間がかかる|出生から死亡までの戸籍だけでなく、父母、兄弟姉妹、甥姪などまで含む広範な相続人調査が必要になることがあります。選任後も、相続人捜索のため、少なくとも6か月以上の公告期間が設けられます。特別縁故者の手続、債権者への弁済、国庫帰属まで行えば、相当期間を要します。
予納金負担が大きくなりやすい|遺産に十分な現預金がなければ、申立人に対して、清算人報酬・不動産管理費・公告費・売却費用・税金その他の経費を賄うための予納金が求められます。金額は裁判所と事案によって異なり、必ず全額戻るわけではありません。
特定の土地だけ処理したい場合には過剰|目的が「隣の一筆だけ買いたい」「危険な空き家だけ解体したい」というものであっても、清算人は原則として被相続人の遺産全体を把握して清算しなければなりません。そのため、特定不動産だけの処理には、所有者不明土地・建物管理制度の方が軽いことがあります。
総合評価
包括的な解決力は非常に高い、申立準備の負担は重い、費用は高くなりやすい、スピードは遅い、特定不動産だけの処理は不向き。
不在者財産管理人制度
活用場面
本人は誰か分かっているものの、住所・居所を去り、容易に戻る見込みがない場合に利用します。
- 共同相続人の一人が行方不明で、遺産分割協議ができない
- 行方不明者の共有持分を含む土地を売却したい
- 行方不明者に対して債権を有するが、本人が財産を管理していない
- 行方不明者所有の建物が危険な状態にある
- 行方不明者の財産全体を保存・管理する必要がある
管理人は不在者の財産を保存・管理し、家庭裁判所の許可を得れば、遺産分割、不動産売却、訴訟、和解なども行えます。
誰が申し立てられるか
申立権者は、不在者の配偶者、不在者の相続人となる者、共同相続人、債権者、共有者、その他不在者本人または不在者の財産について利害関係を有する者、検察官です。申立先は、不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所です。
使い勝手がよい点
遺産分割に参加できる|共同相続人の一人が行方不明の場合、不在者財産管理人を選任し、権限外行為許可を得れば、管理人が不在者に代わって遺産分割協議に参加できます。この場面では、所有者不明土地管理人では対応できません。所有者不明土地管理人は特定不動産を管理する制度であって、不在者本人の相続人としての地位全体を代行するものではないからです。
不動産以外の財産にも対応できる|不在者の預金、株式、債権、複数不動産などを包括して管理できます。不在者を相手とする訴訟や、不在者のための訴訟提起が必要なケースにも対応可能です。処分や訴訟には、原則として家庭裁判所の権限外行為許可が必要です。
使い勝手が悪い点
本人が特定されていなければ利用できない|「登記名義が古すぎて誰が所有者なのか分からない」というケースには向きません。不在者財産管理人制度は、あくまで特定の自然人が不在であることを前提とする制度です。所有者自体が特定できない場合には、所有者不明土地管理制度を検討します。
一つの目的が終わっても当然には終了しない|例えば、遺産分割を目的として管理人を選任した場合でも、遺産分割が成立しただけで職務が当然に終了するわけではありません。原則として、不在者本人が現れる、失踪宣告がされる、本人の死亡が確認される、管理財産がなくなる、などまで管理が続きます。したがって、選任後の報告、財産管理、管理人報酬が長期化することがあります。これは、実務上かなり大きな使いにくさです。
不在者ごとに管理人が必要になる|行方不明の相続人や共有者が複数人いる場合、原則として、それぞれについて不在者財産管理人を選任する必要があります。所有者不明共有持分の管理制度であれば、複数の不明共有者の持分を不動産単位で処理できる場合があるため、多数の所在不明共有者がいる案件では、所有者不明土地管理制度の方が効率的なことがあります。
総合評価
遺産分割への対応は非常に高い、財産全体の管理は高い、本人が特定できない場合は利用不可、終了のしやすさは悪い、長期管理コストは発生しやすい。
所有者不明土地・建物管理制度
活用場面
対象となる土地・建物について、必要な調査を尽くしても、所有者が誰か分からない/所有者は分かるが所在が分からない/共有者の一部が特定できない/共有者の一部の所在が分からない、という場合に利用します。
典型例は、隣地の樹木が越境している、不法投棄・雑草・倒壊危険などがある、所有者不明土地を購入したい、公共事業のため土地を取得したい、共有者の一部が不明で土地全体の利用が止まっている、所有者不明建物を解体または売却したい、という場面です。
誰が申し立てられるか
申立権者は、対象不動産の管理について利害関係を有する者です。具体的には、管理不全による被害を受けるおそれのある隣接地所有者、所在不明共有者以外の共有者、公共事業の実施者、具体的な利用・購入計画を有する民間の購入希望者、担保権者や債権者など対象不動産について具体的利害を有する者などが考えられます。
特に、具体性のある民間の購入希望者が申立人になり得る点は、相続財産清算人制度との大きな違いです。ただし、抽象的に「安ければ買いたい」という程度ではなく、購入・利用計画の具体性と、その不動産に対する実質的利害が必要になります。申立先は、不動産所在地を管轄する地方裁判所です。
使い勝手がよい点
特定不動産だけを処理できる|被相続人や不在者の全財産を管理する必要がなく、特定の土地、建物または共有持分だけを対象にできます。「一筆だけ買い取りたい」「越境樹木だけ処理したい」「危険建物だけ解体したい」「不明共有持分だけ処理したい」という場合には合理的です。
所有者自体が分からなくても利用できる|不在者財産管理人制度では本人の特定が必要ですが、所有者不明土地管理制度では、必要な調査を尽くしても所有者を特定できない場合も対象になります。これは、表題部所有者が「○○ほか数名」となっている土地、相続が数代にわたって未登記の土地、古い法人名義の土地などで重要です。
行方不明共有者が多数いても処理しやすい|特定の不明共有持分を対象として管理命令を出せるため、人ごとに不在者財産管理人を選任するよりも効率的になり得ます。
目的達成後に終わらせやすい|売却、剪定、解体など、管理命令の目的を達成した後は、管理命令の取消しによって終了させることが予定されています。不在者財産管理人のように、本人が現れるまで財産全体の管理を長期間続ける構造ではありません。
使い勝手が悪い点
所有者探索を相当程度尽くす必要がある|申立て前に、登記記録、住民票、戸籍・除籍・改製原戸籍、郵便調査、現地調査、周辺住民への聞き取り、法人登記・役員住所、固定資産課税情報等を調査し、所有者またはその所在が不明であることを報告書と資料で立証する必要があります。裁判所から追加調査を求められることもあります。
土地と建物は別々に申し立てる|土地上に建物がある場合、土地の管理命令だけでは建物を管理・売却・解体できません。土地と建物の両方について、それぞれ申立てが必要です。
申立人の希望どおりに売却されるとは限らない|購入希望者が申立てをしても、管理人がその希望者に売却する義務はありません。管理人と裁判所は、売却の必要性・相当性、所有者が出現する可能性、所有者の利益を害しないか、売却価格が適正か、他に有利な売却方法がないか、などを審査します。したがって、「申立てをすれば確実に自分が買える」という制度ではありません。
予納金と登録免許税が必要|管理人報酬、公告費、剪定・解体・売却準備費用などについて予納金が必要になるほか、管理命令の登記について、不動産価格の1000分の4の登録免許税が必要です。
不動産以外の問題は解決できない|預金、株式、売掛金、相続債務、遺産分割などは処理できません。あくまで対象不動産の管理制度であり、所有者本人や被相続人の財産関係全体を整理する制度ではありません。
総合評価
特定不動産の処理は非常に高い、所有者自体が不明な場合も利用可能、申立人の間口は比較的広い、所有者調査の負担は重い、財産全体の解決はできない、購入の確実性は保証されない。
実務上の選択基準
相続人全員が相続放棄した
原則として、遺産全体を処理するなら相続財産清算人です。預金、借金、複数不動産、債権者への配当まで処理する必要があるからです。
ただし、問題となっているのが特定の土地・建物だけであり、相続財産法人を不明所有者として扱える場合には、所有者不明土地・建物管理命令を検討できるケースがあります。
共同相続人の一人だけが行方不明
遺産分割をするなら不在者財産管理人です。不在者に代わって遺産分割協議に参加する必要があるからです。
ただし、遺産分割は不要で、特定土地の不明共有持分だけを管理・処分したいのであれば、所有者不明土地管理制度の方が軽く済む可能性があります。
登記名義人が死亡しており、相続人が誰か分からない
まず戸籍調査が必要です。
- 相続人がいない・全員放棄|相続財産清算人または所有者不明土地管理制度
- 相続人は特定できるが所在不明|不在者財産管理人または所有者不明土地管理制度
- 相続人自体を必要な調査を尽くしても特定できない|所有者不明土地管理制度を検討
隣地の空き家・空き地で困っている
- 土地所有者が死亡し、相続人不存在|相続財産清算人または所有者不明土地・建物管理人
- 所有者は特定できるが行方不明|不在者財産管理人または所有者不明土地・建物管理人
- 所有者自体が特定できない|所有者不明土地・建物管理人
通常は、隣地への被害防止という限定目的であれば、所有者不明土地・建物管理制度が第一候補になります。
土地を買いたい
- 所有者が死亡し、相続人不存在で遺産全体の清算が必要|相続財産清算人
- 所有者本人は特定できるが行方不明|不在者財産管理人または所有者不明土地管理人
- 所有者自体が分からない|所有者不明土地管理人
- 購入希望者自身が申立人になりたい|具体的購入計画があれば、所有者不明土地管理制度が最も申立適格を認められやすい
ただし、いずれも売却価格の相当性と所有者・相続財産の利益が優先され、申立人への随意売却が保証されるわけではありません。
比較結論
| 観点 | 相続財産清算人 | 不在者財産管理人 | 所有者不明土地管理人 |
|---|---|---|---|
| 遺産・財産全体の処理 | ◎ | ◎ | × |
| 遺産分割への参加 | × | ◎ | × |
| 所有者自体が不明 | △※ | × | ◎ |
| 特定不動産だけの処理 | △ | △ | ◎ |
| 民間購入希望者の申立て | △ | △ | ○ |
| 所有者・相続人調査 | 非常に重い | 重い | 重い |
| 手続期間 | 長い | 長期化し得る | 比較的限定しやすい |
| 目的達成後の終了 | 清算完了まで | 終了しにくい | 比較的終了しやすい |
| 費用負担 | 大きくなりやすい | 長期化すると大きい | 対象限定だが予納金等あり |
※相続財産法人を不明所有者として扱うケースを除きます。
実務上は、相続人がいないなら清算人、行方不明者に成り代わるなら不在者財産管理人、不動産一つだけを動かすなら所有者不明土地管理人という整理になります。
補足|民法897条の2の「相続財産管理人」
現在、正式に相続財産管理人と呼ばれる制度は、相続財産の保存・散逸防止・相続人への引継ぎを目的とするものです。
- 相続人はいるが、誰も遺産を管理しない
- 相続人が遺産の受領を拒否している
- 相続人間に争いがあり、元成年後見人が財産を引き渡せない
- 相続人調査中に財産が散逸するおそれがある
という場合に利用します。申立人は、共同相続人、相続債権者、受遺者、相続人の債権者、元成年後見人などの利害関係人または検察官です。ただし、この制度は原則として財産の保存と引継ぎを目的とし、相続人不存在の場合の清算や換価を本来の目的とはしていません。
まとめ
3つの制度は、それぞれ管理する単位(人・遺産・不動産)が異なり、目的に応じた使い分けが不可欠です。
「相続人がいない土地の処分で困っている」「隣地の所有者と連絡が取れない」「被相続人への債権を遺産から回収したい」
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