遺産の預金が使い込みされたらどうなる?

親(被相続人)が亡くなった後、あるいは亡くなる直前の数ヶ月の間に、特定の親族(例えば同居していた長男など)が親の口座から勝手に数百万円単位の多額のお金を引き出してしまうケースがあります。

これをそのまま放置すると、本来相続人全員で分けるべきはずだった「遺産」が減ってしまい、他の相続人が大きく損をしてしまいます。

相手が「親の介護費用や生活費のために使った」と言い張っていても、それが実態と異なる場合は、引き出されたお金を取り戻す、あるいは遺産分割(遺産の分け合い)の中で精算するための法的な手続きをとることが可能です。

使い込みに対する返還請求の法的手段

使い込まれた預金を取り戻すための返還請求には、状況に応じて主に以下の2つの手段がとられます。

  • 遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)での調整|まずは相続人全員での話し合いの場で解決を目指します。使い込んだ本人が引き出した事実を認めれば、その使い込んだ金額を「特別受益(生前にもらった遺産の前渡し)」として扱ったり、あるいは「本来の遺産の中に使い込んだ預金もまだ残っているもの」として計算(持ち戻し計算)したりすることで、他の相続人の取り分を調整し、実質的な返還を受けます。
  • 民事訴訟(不当利得返還請求・損害賠償請求)|もし相手が「自分が引き出したわけではない」「親の生活費に使った」と事実に反する主張をして使い込みを否定し、話し合いでの解決が困難な場合は、別の裁判(民事訴訟)を起こす必要があります。法律上、正当な理由なくお金を得た相手に対して返還を求める「不当利得返還請求(ふとうりとくへんかんせいきゅう)」や、違法にお金を引き出したことへの損害賠償を求める「不法行為に基づく損害賠償請求」という訴えを起こして決着をつけます。

返還請求を成功させるために必要な証拠

裁判や交渉で相手に使い込みを認めさせるためには、「口頭の言い分」だけでは不十分です。ご自身に有利な結果を導くためには、客観的な証拠を集めることが何よりも重要になります。

  • 過去数年分の「取引履歴(入出金明細)」|現在の口座残高を知るだけでは不十分です。亡くなる数年前(過去10年分など)にさかのぼって金融機関の取引明細を取り寄せ、精査します。これにより、「いつ・どこで・いくら」引き出されたのかという不自然な高額出金の足跡を明らかにします。
  • 当時の被相続人(親)の「医療記録・介護記録」|相手が「親に頼まれて引き出し、親自身が使った」と主張した場合、親の当時の健康状態が最大のカギになります。例えば、カルテや介護認定の記録、入院費用明細などの客観的資料を用いて、「その時期、親は重度の認知症で意思能力(物事を正しく判断する能力)がなかった」「病院に入院中で、自分でお金を引き出して使うことは不可能だった」という事実を法的に指摘します。

当事務所の解決事例

当事務所で実際に使い込みが疑われる事案を解決した事例をご紹介します。

使い込みが疑われる事案で和解により約480万円を獲得

状況|ご相談者様(60代女性)は、お母様が亡くなった後、同居していた相続人と連絡が取りづらい状況でした。遺産総額も不明で、相手が預金を使い込んでいる疑いがありました。

当事務所の対応|弁護士が代理人となり、まずは預貯金などの相続財産の所在や評価額を徹底的に調査しました。不明確な預金取引などがあったため、特別受益(生前贈与など)の有無や総額を調べ、持ち戻し計算により正確な「遺産総額」を明らかにしました。その上で、法定相続分(法律で定められた取り分)を超えて財産を使用していた相手方に対し、適正な遺産の分割と、超過して受け取った分の返還を請求しました。

結果|長引く裁判に発展することなく、代理人の交渉によって無事に和解(訴外での和解)が成立し、最終的に約480万円を獲得することができました。

複雑な証拠集めもワンストップで|当事務所の強み

預金の使い込み調査は、ご自身で行うには大きな限界があります。「相手が通帳を見せてくれない」「他の銀行にも口座があるか分からない」といった場合でも、弁護士法人いかり法律事務所なら以下の強みでサポート可能です。

  • 弁護士法に基づく独自の調査権限(23条照会)|当事務所では、弁護士法に基づく強力な照会制度(23条照会等)を駆使します。個人では特定が困難な隠れた財産や、過去の不透明な出金履歴まで、相手の協力がなくても金融機関に直接照会をかけ、迅速かつ確実に証拠を収集します。
  • 「納得の決着」を目指す交渉力|親族間の使い込み問題は、激しい感情的な対立を生み、泥沼化(争族)しやすい問題です。私たちは単なる法的な正論を押し付けたり、声の大きい人が勝つような場にはさせません。関係者の感情に寄り添い、相続人の法律上の「実利」の実現と感情面での「納得感」の両立を目指す「納得の決着」を大切にしています。相手との直接のやり取りはすべて弁護士が代行するため、ご依頼者様の精神的なストレスを大幅に軽減できます。

まとめ

遺産である預金の使い込みは、放置すればあなたの正当な権利が奪われ、疑心暗鬼から家族の絆を完全に壊してしまう重大な問題です。しかし、相手に返還請求を行うためには、取引履歴や医療記録といった的確な証拠集めと、専門的な法的主張が欠かせません。

「親の口座から不自然な引き出しがあるが、相手が認めない」「自分で銀行の履歴や証拠をどう集めればいいか分からない」

福岡で遺産の使い込みトラブルや財産調査にお悩みの方は、弁護士法人いかり法律事務所へお気軽にご相談ください。当事務所では初回60分の無料相談を実施しております。あなたに代わって複雑な調査と交渉を引き受け、安心できる解決へと導くため、私たちが全力で伴走いたします。

よくあるご質問

亡くなった親の通帳を調べたところ、生前や亡くなった直後に不自然な引き出しがありました。放置するとどうなりますか?
本来、相続人全員で公平に分けるべき「遺産(預貯金)」が勝手に減らされてしまい、あなたの正当な権利(取り分)が奪われてしまいます。また、「特定の親族が財産を隠したり、勝手に使い込んだりしているのではないか」という不信感を放置すると、家族・親族間の感情的な対立が深く泥沼化し、遺産分割の話し合い(協議)が完全にストップしてしまう重大な原因になります。
同居していた親族が預金を使い込んでいる疑いがありますが、相手は「親の生活費や介護費用に使った」と言い張り、領収書も出しません。どうすれば使い込みを証明できますか?
使い込みを相手に認めさせる(あるいは裁判等で立証する)には、口頭の主張ではなく、客観的な「証拠」を集めることが何よりも重要です。具体的には、①預金口座の「取引履歴(入出金明細)」を亡くなる数年前(過去10年分など)にさかのぼって取得し、「いつ・どこで・いくら」引き出されたのかという不自然な高額出金の足跡を明らかにします。②当時の親(被相続人)の「医療記録・介護記録」として、医師の診断書、カルテ、介護認定の記録、入院費用明細などを取り寄せます。「当時、親は重度の認知症で意思能力がなかった」「入院中で、自分でお金を引き出したり、他人に頼んで生活費として使わせたりすることは物理的に不可能だった」という事実を証明できれば、相手の「生活費・介護費に使った」という言い逃れを崩すことができます。
他の相続人が通帳を管理していて、内容を見せてくれません。相続人の一人から単独で銀行口座の履歴を取り寄せることはできますか?
はい、他の親族の合意や協力がなくても、あなた単独で金融機関に取引履歴(取引経過)の開示を請求することができます。預金者が死亡した場合、共同相続人の一人は、被相続人名義の預金口座について取引経過の開示を求める権利を単独で行使できることが最高裁判所の判例(最一小判平成21年1月22日)により認められています。自分が正当な相続人であることを証明できる戸籍謄本などの必要書類を窓口に提示することで、過去の出金履歴を取り寄せることが可能です。
使い込まれた預金を取り戻す、あるいは精算するためには、具体的にどのような法的手段をとればよいですか?
相手が使い込みを「認めているか・認めていないか」の状況によって、主に2つの手段を使い分けます。①遺産分割協議での「特別受益」としての調整(話し合いで解決する場合):相手が引き出した事実を認めている場合は、その金額を「特別受益(遺産の前渡し)」とみなして持ち戻し計算を行い、全体の遺産総額にその使い込み額を足した上で分け方を計算します。使い込んだ本人が受け取る今回の遺産をその分だけ減らすことで、他の相続人の取り分を増やし、実質的な精算(返還)を行います。②民事訴訟(話し合いが困難な場合):相手が「引き出していない」「親のために使った」と主張して解決できない場合は、遺産分割協議とは別に、地方裁判所などに民事訴訟を提起します。正当な理由なくお金を取得した相手に返還を求める「不当利得返還請求」や、違法な引き出しに対する「不法行為に基づく損害賠償請求」という訴えを起こして決着をつけます。
親が亡くなった「後」に、特定の相続人が勝手にキャッシュカードで預金を引き出していたことが分かりました。これも返還請求や遺産分割で精算できますか?
はい、可能です。親(被相続人)の「死亡後」に引き出された預金についても、返還を求める手続きが用意されています。被相続人が亡くなった瞬間に、被相続人名義の口座にある預金は相続人全員の「準共有(共有財産)」となります。そのため、他の相続人に無断でお金を引き出す行為は、他の相続人の共有持分権を侵害する行為(不当利得や不法行為)となります。この場合、相続人全員の同意があれば、引き出された預金を「遺産分割時にまだ遺産として存在しているもの」とみなして一括で遺産分割の対象に含めて精算できますが(民法906条の2第1項)、合意できない場合でも、個別に「不当利得返還請求」などの民事訴訟や交渉を通じて、ご自身の法定相続分に応じた金額を返還させることが可能です。