なぜ遺留分侵害額請求への対策が生前に必要なのか

ご自身が築き上げた財産は、本来「誰に・どのようにあげるのも自由」なはずです。しかし、法律(民法)は、残された家族の生活の安定や最低限の平等を守るため、兄弟姉妹を除く一定の相続人(配偶者や子どもなど)に、最低限保障された遺産の取り分である「遺留分(いりゅうぶん)」を認めています。

例えば、「全財産を長男に相続させる」という遺言書を残して亡くなった場合、他の兄弟は最低限の取り分をもらえなくなってしまいます。このとき、他の兄弟が長男に対して「自分の遺留分を金銭で払ってほしい」と要求することを「遺留分侵害額請求(いりゅうぶんしんがいがくせいきゅう)」と呼びます。

遺留分は法律で強く守られた権利であるため、遺言書を書いただけで安心してしまうと、亡くなった後に家族間で多額の金銭を巡る争いが起きてしまいます。だからこそ、遺留分による親族間トラブルを防ぐためには、ご本人が元気な生前に、しっかりとした対策を講じておくことが非常に重要なのです。

生前にできる3つの対策

では、将来のトラブルを防ぐために、具体的にどのようなことができるのでしょうか。ここでは代表的な3つの方法をご紹介します。

  • 生命保険の活用(代償金の準備)|生命保険の死亡保険金は、原則として「受取人固有の財産」とみなされるため、遺産分割(遺産の分け合い)の対象から外れます。例えば、実家の不動産を長男に相続させる場合、長男が他の兄弟から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。そこで、長男を受取人とする生命保険に加入しておけば、長男は受け取った保険金を、他の兄弟へ支払う「代償金(現金)」として活用することができ、トラブルを回避できます。
  • 遺留分の事前放棄|民法では、被相続人(財産を残す人)の生前に、相続人自らが「自分の遺留分はいりません」と放棄することが認められています。しかし、この手続きは、相続人本人が家庭裁判所に申し立てを行い、許可を受ける必要があります。裁判所の審査は厳しく、また「自分から放棄してくれ」と親族に頼むこと自体が心理的なハードルとなるため、実際の利用は難しいケースも少なくありません。
  • 遺言書への「付言事項(ふげんじこう)」の記載|遺言書の最後に、なぜそのような財産の分け方にしたのかという「ご自身の想い」や「家族への感謝」を書き添えることができます。法的な強制力(遺留分を奪う力)はありませんが、「父がここまで考えて決めたことなら」と、他の相続人の感情的な納得を促し、結果的に遺留分の請求を思いとどまらせる効果が期待できます。

事業承継における生前の民法特例

中小企業の経営者の方が、後継者(例えば長男)に自社の株式(自社株)を集中させて会社を継がせようとする場合、遺留分の問題は特に深刻です。自社株の価値が高いと、他の相続人から多額の遺留分侵害額請求を受け、結果として支払いのために自社株が分散してしまい、会社の経営が揺らぐ恐れがあるからです。

この問題を防ぐため、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づく「遺留分に関する民法の特例」が用意されています。以下の2つの合意を組み合わせることで、強力な対策となります。

  • 除外合意(じょがいごうい)|後継者が生前贈与で取得した自社株を、遺留分を計算するための財産から「完全に除外」する合意です。これにより、自社株の分散を確実に防ぐことができます。
  • 固定合意(こていごうい)|遺留分の計算に入れる自社株の価値を、合意した時点の「時価に固定」する合意です。将来、後継者の頑張りで会社の業績が上がり株価が上昇しても、遺留分の額が増えることはありません。

当事務所の解決事例

「生前対策をしていなかった」「遺言書の内容で請求されてしまった」という場合でも、専門家が介入することで適正な解決が可能です。当事務所で実際に解決した事例をご紹介します。

前妻の子からの遺留分侵害額請求を約30%減額して合意

状況|被相続人(亡くなった方)は「現在の妻(50代女性)に全財産を遺贈する」という公正証書遺言を残していました。現在の妻が遺言通りに手続きを終えた後、被相続人の「前妻の子」から突然、遺留分侵害額請求を受けました。

当事務所の対応|相手方と、古い不動産の評価額について大きな意見の対立がありました。弁護士が双方の査定書を比較し、粘り強く交渉を行いました。

結果|時間と費用のかかる裁判や不動産鑑定を回避し、双方の査定額の平均値を評価額とすることで合意。相手方の当初の提示額から約30%減額した約300万円で和解が成立しました。

このように、遺留分を巡る争いは「不動産や資産の評価をいくらとするか」が大きな争点となります。適正な評価と冷静な交渉を行うためにも、専門家の介入が重要です。

複雑な相続対策もワンストップで|当事務所の強み

遺留分の対策は、法律の問題だけでなく、税金や不動産評価など幅広い知識が求められます。弁護士法人いかり法律事務所では、以下の強みで皆様をサポートいたします。

  • 法的な「実利」と感情の「納得」の両立|相続は法律の問題であると同時に、家族の「感情」の問題です。私たちは、単に法律を押し付けたり、声の大きい人だけが勝つような場にはしません。ご家族の歴史や想いに丁寧に向き合い、皆が納得できる「納得の決着」を目指します。
  • 税理士・司法書士・不動産鑑定士等とのワンストップ連携|当事務所は提携する各分野の専門家と密に連携しています。弁護士が遺留分などの法的トラブルを防ぐ対策(法務)を行い、税理士が相続税や贈与税の対策(税務)を行うなど、窓口ひとつで総合的なサポートを提供します。

まとめ

遺留分侵害額請求を防ぐためには、遺言書を書くだけでなく、生命保険の活用や民法の特例を用いた生前の綿密な対策が不可欠です。ご家族が亡くなった後に「お金の争い」で悲しい思いをしないために、元気な今のうちから準備を始めましょう。

「自分の財産が将来もめないか心配だ」「事業承継のために、確実な対策をしておきたい」

福岡で相続の生前対策をご検討中の方は、弁護士法人いかり法律事務所へお気軽にご相談ください。当事務所では初回60分の無料相談を実施しております。あなたの大切な資産とご家族の絆を守るため、私たちが全力で伴走いたします。

よくあるご質問

遺言書に「すべての財産を長男に譲る」と書いておけば、他の兄弟からの遺留分請求を完全に防ぐことができますか?
いいえ、遺言書があっても、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者や子どもなど)には、法律上最低限保障された取り分である「遺留分」が認められています。そのため、どれほど確実に作成された遺言書であっても、それ単体で他の相続人からの遺留分請求を完全に防ぐことはできません。将来残された家族の間で金銭的な争いが発生するのを防ぐためには、遺言書の作成と並行して、生前のうちから具体的な法務・税務対策を講じておくことが極めて重要です。
生前に、特定の子に実家を引き継がせる準備を進めています。他の子からの遺留分請求に備えて、生命保険をどのように活用すればよいですか?
実家を相続する予定の子を受取人とした生命保険に加入しておく方法が効果的です。死亡保険金は原則として遺産分割の対象外(受取人固有の財産)となります。そのため、実家を継ぐ子は、将来発生するかもしれない他の兄弟からの遺留分侵害額請求に対し、受け取った保険金を支払資金(代償金)として活用することができ、実家を手放さざるを得なくなるような最悪のシナリオを回避できます。
生前に子の一人が「遺言の内容に納得したから、遺留分はいらない」と同意しています。口約束や家族間の念書だけで有効ですか?
いいえ、当事者間での口約束や合意書だけでは、生前の「遺留分の放棄」は法的に一切成立しません。被相続人の生前に遺留分を放棄してもらうためには、放棄する相続人本人が自ら家庭裁判所に申し立てを行い、許可を得るという厳格な法的手続きが必要です。裁判所による許可基準は非常に厳格であり、かつ親族に自ら申し立てを頼むこと自体も心理的なハードルが高いため、実際の活用には注意深い検討が求められます。
事業承継において、後継者に自社株を集中させたいのですが、株価が高いため将来高額な遺留分を請求されそうで不安です。どのような生前対策がありますか?
「遺留分に関する民法の特例(経営承継円滑化法)」を活用する生前対策が用意されています。この特例では、後継者が生前贈与で取得した自社株を遺留分の計算対象から完全に除外する「除外合意」や、遺留分計算における自社株の評価額を合意時の時価に固定する「固定合意」を組み合わせることができます。これらを活用することで、将来株価が急上昇しても後継者の想定を超える遺留分請求を防止でき、自社株の分散による経営権の不安定化を防げます。なお、適用には推定相続人全員の合意、経済産業大臣の確認(実際の窓口は中小企業庁)、家庭裁判所の許可が必要です。
遺言書に記載する「付言事項」とは何ですか?遺留分の請求を防ぐような法的な強制力はありますか?
付言事項とは、遺言書の最後に「なぜこのような財産の分け方にしたのか」という、ご自身の想いや家族への感謝のメッセージを書き添える部分のことです。付言事項には、遺留分そのものを奪うような「法的な強制力」はありません。しかし、遺産の分配方法を決めるに至った真意や、家族それぞれに対する配慮を言葉で遺しておくことで、相続人の感情的な納得を促し、結果として遺留分侵害額請求の行使を思いとどまらせる心理的な効果が期待できます。